【読んだ:2015-5】最後の寄稿文に心震える/『本屋会議』
町の本屋さんは危機的状況にあります。出版不況といわれるなか本が売れず、閉店する本屋さんが跡を絶ちません。
それでも本屋さんを何とか残そう、何とか発展させていこうとする人たちも大勢います。なぜそんなに必死になるのでしょうか、そもそも町の本屋さんの魅力となんなのでしょうか。
本好きにとって、いまはラッキーな時代か
出版不況などといわれ、本が売れないといわれる。それでも本好きにとって今は、ラッキーな、楽しい時代なのかも知れない、と思いました。
【読んだ:2015-4】本は拡張し、みな本屋になりうる - やすらかLIBRARYでとりあげた『本の逆襲 アイデアインク』で紹介されている考え方の一つとして、プロダクトとしての本と、データとしての本を分ける、というものがあります。
データとしての本とはすなわち本の「中身」、現代において印刷される直前まで本の中身はデジタルデータであることから、紙の本ですらその中身はほとんど電子書籍である、とも言えます。一方プロダクトとしての本とは「そのデータである中身に、形あるモノとしての外見が与えられた状態」(同書、p. 116)のことです。手に触れられないデータとしての本は印刷されることによってプロダクトとしての本になります。
近年はこの「プロダクトとしての本」という(本の持つたくさんのうちひとつの)特性が強調されているように思います。
電子書籍が普及してくるとともに、「やっぱり本は紙だ」、「ページめくりという行為が・・・」、「装丁が・・・」、「蔵書の大切さが・・・」等々、紙の本であること、プロダクトとしての本であることの大切さや利点があちらこちらで説かれるようになりました。
内沼さんは同書のなかで
・・・紙の本に対する感情は、単なる「なくなるのが寂しい」という気持ちだけではなく、紙という素材、あるいは本というプロダクトの特性を、電子書籍に触れることで意識させられた結果によるものでもあったのではないでしょうか。
(同書、p. 116)
と述べています。
紙の本であることのよさ、本のプロダクト性については、前々から多くの人に認識されていたのでしょう。しかし、こうしたことをはっきりと言葉にして表現するようになったのは、電子書籍が登場してからのような気がします。電子書籍の登場によって、すなわちデータとしての本という側面が強調されることによって、私たちは本のプロダクト性とそのよさにあらためて気づき、表現することができたのではないでしょうか。
その意味で、今は本好きにとってはラッキーで楽しい時代なのかも知れません。「本」の選びようがたくさんあって、紙の本も電子書籍も選ぶことができます。プロダクトとしての本も、紙で持つか、Kindleなどの電子書籍リーダーの形で持つか選択することができます(これはKindleで読んだけど、保存しておきたいから紙でも買う!なんてこともできます)。電子書籍でどこでも気軽に読書を楽しみながら、一方では本のプロダクト性をよりいっそう認識し、プロダクトとしての本を「愛でる」ことができます。たとえば、
などなど、電子書籍では体験できない何気ないことに価値を見出し、大切することができます*3。
さらに、『本の逆襲 アイデアインク』で述べられているように本は「拡張」しています。もはや本とは何か、定義困難な時代です。Twitterのつぶやきも、ビブリオバトル*4での語りもディスカッションも、「貸本屋」にとどまらない新しい図書館のスタイルも、それ自体がみんな「本」になり得る時代、本を愛する私たち、その私たちが本について語ることも「本」になり得る時代です。
私たちは多様な本を、多様な形で楽しめる、そんな時代に生きていると思えてきました。
もしかしたらこうした楽しみ方は、出版産業が衰退しきっていない、電子書籍が紙の本を駆逐しきっていない今このタイミングだからこそ可能なのかもしれません。いろいろな本の形が残っている今だからこそ「ラッキーだな」なんて呑気なことをいっていられるのではないか・・・。
それでも私たち本好きは、この状況を最大限楽しめばいいのです。そうして本の楽しさを、いろんな人に伝えていく。そうすれば、本の多様性はもっと広がり本の世界はもっと楽しくなるのかも知れません。いや、本の世界はきっと、今後も楽しくなり続けます。
- 作者: 内沼晋太郎
- 出版社/メーカー: 朝日出版社
- 発売日: 2013/12/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (24件) を見る
- 作者: 内沼 晋太郎
- 出版社/メーカー: 朝日出版社
- 発売日: 2013/12/12
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (4件) を見る
電子書籍と紙の本問題、再燃。そして未来の電子辞書、妄想 - やすらかLIBRARY
*2:電子書籍と紙の本問題、再燃。そして未来の電子辞書、妄想 - やすらかLIBRARY
*3:少なくとも私は、電子書籍を読み始めてこうした本のプロダクト性に意識がむくようになりました
【読んだ:2015-4】本は拡張し、みな本屋になりうる
本書の著者であるブックコーディネーター*1の内沼晋太郎さんはこう言い切ります。
「出版業界の未来」ははっきり言って暗いけれども、生き残る方法はたくさんあるし、「本の未来」に至ってはむしろ明るく、可能性の海が広がっているとぼくは考えています。
(『本の逆襲』、p. 7)
本は可能性に満ちあふれている!本好き(自称)の私は、読んでいてうれしくなりました。
- 作者: 内沼 晋太郎
- 出版社/メーカー: 朝日出版社
- 発売日: 2013/12/12
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (4件) を見る
*1:内山さん本人も「やや恥ずかしい肩書き」といっています。確かに現状ちょっと恥ずかしいですが、これからメジャーになっていく肩書きかも知れません
【読んだ:2015-3】読めば図書館に行きたくなる!/『夜明けの図書館』
図書館司書とレファレンス・サービスがテーマのマンガ、『夜明けの図書館』。
このほんわかマンガが、最近の私のお気に入りです。
- 作者: 埜納タオ
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2012/09/07
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (1件) を見る
大反響のレファレンス図書館マンガ!「夜明けの図書館」埜納タオ
続きを読む