【読書】芳沢 光雄 『数学的思考法』

数学教育の啓蒙家として僕もよく雑誌とかで目にする芳沢さんの新書。

数学的思考法―説明力を鍛えるヒント  講談社現代新書

数学的思考法―説明力を鍛えるヒント 講談社現代新書

抜き書き

「仮定」である「世界」が異なれば「結論」は異なる (p. 48)

国際化の本質は「相違なる環境で育った人たちが、自らの立場である『仮定』とそこから導かれる『結論』を明らかにし、異なる立場の人たちとの間で共通の認識を持てるように努力する」ことである (p. 49)

良書、ただ前半は品がない

本書はAmazonの評価がとても高いので期待しながら読んだ(というのもあまりよくないと思うが)。結論から言えば、少々期待外れだった。というか私が想像していたのと内容が違っていたからだ。私は当初、本書は数学的思考法が日常生活でいかに必要なのかを新書一冊かけて解説したものと思い込んでいた。だが実際はそうではなく、数学的思考法が日常生活でいかに必要なのかを「細かいコラムとして紹介したものを集めた」ものだった。そういうわけで、新書一冊かけてそれなりの議論を期待した私にとっては期待が外れた、というわけだ(この点に関しては本書が悪いわけではないが)。

1コラム1テーマを取り上げ、数学的思考法の必要性と有用性を簡潔に示しているので、読みやすい。コラムゆえに数学的な魅力・応用面の魅力を十分に伝えられていないんじゃないかと思わせる個所もあるが、それでも著者の数学教育に対する熱意、数学の面白さを伝えようとする熱意が感じられる。

ただし、非常に残念なのが、本書前半部分がちょっと品がないところだ。
著者が現在の数学教育に大きな不満を抱えているのはよくわかるのだが(そしてその不満はもっともだと思うが)、随所に「いまの教育はだめだー」・「俺がわかいときはー」的な物言いがでてくる。しかし、これもコラムゆえなのかもしれないが、昔はどのような状況でそれがどういう原因によって、どのようにだめなのか、という議論がほとんど展開されていないのだ。たとえば第1章1-2のコラム名は「若者はなぜ「地図の説明」が苦手になったのか」だが、本当に苦手なのか、昔の若者は地図の説明が得意だったのか、といったことには一切触れられていない。それゆえ、「おっさんの説教」臭さが鼻につく、という点が残念ポイントである。