【読書】『近代絵画史―ゴヤからモンドリアンまで (上) 』
読んだ。高階さんの流れるような、それでいて緻密な解説を堪能しつつ、近代絵画史のポイントを押えることのできる良書だと思う。もっといえば、私が美術・絵画史をほとんど知らない素人であるということを強調しつつも、本書は絵画入門書としては超良書の部類に入るのではないかと思う。
近代絵画史―ゴヤからモンドリアンまで (上) (中公新書 (385))
- 作者: 高階秀爾
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1975/02
- メディア: 新書
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ゴヤからモンドリアンまで
本書のサブタイトルとして「ゴヤからモンドリアンまで」とあるように、本書は近代絵画の源流をゴヤ、ロマン派の絵画とし、第二次世界大戦前までの近代絵画史を概観するものだ。同じ著者のこれまた名著に名画を見る眼 (岩波新書)、続 名画を見る眼 (岩波新書 青版 E-65)があるが(読書感想文はこちら:【読書】高階 秀爾『名画を見る眼』 - 準備運動、【読書】高階 秀爾『続・名画を見る眼』 - 準備運動)これらはルネサンス以来20世紀までの西洋絵画を取り上げていた。本書近代絵画史―ゴヤからモンドリアンまで (上) (中公新書 (385))(とその下巻近代絵画史―ゴヤからモンドリアンまで (下) (中公新書 (386)))はその一部分(「豊かな混沌」の20世紀を準備するまで)をクローズアップして、さらに詳細な解説を加えたものになっている。上巻では、そのゴヤからナビ派までを扱っている。
現代絵画への道をあざやかに描き出す
上巻では現代絵画の本丸にはいっていく前段階、いわばルネサンス以来の伝統の破壊とそこから生まれてくる現代絵画の萌芽に焦点を当てている。個別の項目としては、
- ロマン派の感受性
古典主義美学を否定し、自己の個性と、内面性と、主観性とを追求するようになった
- 「平坦な面」の強調
マネの『オランピア』にみられるような伝統的手法による「立体感」の喪失
伝統的な美を実現する手段としてではなく、新たなモティーフを扱う写実主義
固有色を否定し、「眼に見えるままの世界」を描き出そうとした点において、印象派は究極の写実主義といえる
- 印象主義の超克
色彩分割などの手法により崩壊した明確な形態を取り戻す動き
- 象徴主義・綜合主義
眼に見えない世界、内面の世界、魂の領域にまで探求の目を向けることが、絵画の本質的な役割
- 表現主義的傾向の源流
などがあげられる。むりやりまとめるとするならば、
- マネに源流を求めることができる、「絵画作品とは、裸婦とか、戦場縄間とか、その他何らかの逸話的なものである前に、本質的に、ある一定の秩序の元に集められた色彩によって覆われた平坦な表面である」というモーリス・ドニのことば
これらが、20世紀のフォービスム・キュビスム・シュルレアリスム・抽象主義といった現代絵画を用意したといえる。
高階氏の解説は明快で、まさに大河の源流からスタートし、その川がどんどん大きくなっていく様を見せられているようで、感動すら覚える。
絵画をちゃんと見てみたい、という人の2冊目に
本書は上下巻だが1冊はそれほど厚くない、通常の新書サイズだし、高階氏の解説はわかりやすく読みやすい。なので本書は絵画をちゃんと見てみたい、ちょっと現代絵画に至るまでの歴史を知りたくなった(私のような)ひとに最適だとおもう。
まずは、名画を見る眼 (岩波新書)、名画を見る眼 (岩波新書)で各作品の特徴、絵画の簡単な歴史、絵画技法をおさらいし、本書近代絵画史―ゴヤからモンドリアンまで (上) (中公新書 (385))に入っていくのがよいと思う。