【読書】増補 日本美術を見る眼 東と西の出会い

高階さんシリーズ第6弾(今勝手に名付けた)。
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増補 日本美術を見る眼 東と西の出会い (岩波現代文庫)

増補 日本美術を見る眼 東と西の出会い (岩波現代文庫)

日本の美術を外国、特に西欧美術との対比において見ることにより、これまであまり意識されなかった特性が浮かび上がってきたり、あるいは、日本と西欧の文化の特質という問題を考えさせられたりする
(p. 284)

とあるように、また副題として「東と西の出会い」とあるように本書は日本美術、特に日本絵画の特性を、西欧絵画との対比によってあぶりだそうというものである。

ほとんどいままで各所で発表してきた文章を一冊にまとめたものであるが故、ほかの高階さんシリーズにみられるような、ひとつのテーマについて一冊をかけてあざやかに説明をしていくという特徴は弱まっている。また寄せ集めであるため、同じことを何回も、時にはいろいろな角度から同じことを言ってる箇所がある。こういうと本書がまとまりがない、単なる寄せ集めだ、と思われるかもしれないがそんなことはない。むしろ何回も繰り返されるがゆえに、読者にその日本絵画の特性を強調する。さらにひとつひとつの文章の明快さ、明晰さはやはり高階さんだなと思わせる。

繰り返される日本絵画の特性

本書の中で繰り返される日本絵画の特性としては、以下のようなものがある。

  • 心情の美学

対象固有の「美」ではなく、対象に触れた際の心、感じ方を問題とする。

  • 小さなもの、繊細なもの、あるいは「縮小されたもの」に対する強い好み
  • 細部の写実性

西洋絵画が、一定の視点(=画家の視点)から見た空間的写実性を重視するのに対して、日本絵画は対象に寄ることで細部の写実性を実現する。そして対象に肉薄することによる「平面化」傾向↔西洋絵画の「奥行き感」

  • 否定の美学

描き込むべき対象・色彩を思い切って排除することによる「美」の追求

  • 「部分による全体の暗示」

一例として「枝垂れモティーフ」

  • 「連続性の美学」

絵画の枠がそれほど強い制約を持たない日本絵画では時間性を持った旅・季節の移り変わりを描いた絵画が見られる。一方枠内でひとつの世界・秩序を構成し完成する西洋絵画。

  • 「視形式」

ルネサンス期以降の西欧の絵画が、画家の視点を唯一普遍のものとして、その視点から捉えられた世界を画面の上に再現しようとするのに対し、日本の絵画は視点を自由に移動させて、さまざまの視点から見た世界の姿を画面に並置するというやり方を用いる
(p. 114)

  • 移りゆくことの美学

西欧世界においては、人体比例の美学の例に見られるように、ギリシャ以来美はある一定の基準を満たしているものという考え方が強く、そのかぎりで美は永遠不変であるが、日本人にとっては美とはむしろ時の流れとともに消え去りゆくもので、失われゆくものに対する愛惜の思いが、美意識の重要な要素のひとつとなっている
(p. 234)


本書はこれらの特性を、西欧絵画との対比により際立たせながら、あざやかに、かつわかりやすく提示している。
それゆえ、本書は高階さんシリーズで西欧絵画についてわずかでもかじったあとに読むと、その対比がよりクリアになるだろう。