【読書】白井恭弘『ことばの力学 ―応用言語学への招待』

ことばの力学――応用言語学への招待 (岩波新書)

ことばの力学――応用言語学への招待 (岩波新書)

著者の基本姿勢は「あとがき」で触れられている。

言語や言語習得に関する多くの研究の蓄積を少しでもわかりやすく伝えること、そして、それによってプロローグで述べた「科学的根拠にもとづいた社会」を目指すということです。
(p. 197 あとがき)

同じ著者の外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か (岩波新書)の姉妹編として書かれた本書は、その副題にあるとおり「応用言語学」の入門書である。応用言語学とは、本書の記述を借りれば、「現実社会の問題解決に直接貢献するような言語学」(p. ⅰ)である。従来外国語教育がその主な対象であったが、本書ではそれ以外にもさまざまな対象を紹介している。
社会の多言語状況、バイリンガル・手話言語について、法的状況(裁判など)における言語使用、言語障害についてなどなど・・・。それら、ともすれば多くの誤解に基づいて差別や偏見を生み出しているトピックに対して、応用言語学研究の蓄積=科学的知見に基づき、再考するきっかけを与えてくれる。


「科学的」といっても堅苦しい話が続くわけではない。科学的な研究をもとに、わかっていることをわかりやすくかつ簡潔に説明する、というスタンスらしく、むしろその科学的根拠を導き出したプロセスはかなり省略されている。新書というスペースの制約上仕方ないことかもしれないが、そこが本書の「物足りなさ」と感じる人もいるのではないか、とおもった。

だがいずれにせよ、応用言語学の世界を、入り口からちょこっとのぞくには最適な本だ。