【読書】マッカーサーが仕掛けた「時限爆弾」/笠原英彦(2008)『象徴天皇制と皇位継承』、ちくま新書

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【読書】山本雅人(2009)『天皇陛下の全仕事』、講談社現代新書 - 準備運動につづき、天皇制関連の書籍を読んだ。

象徴天皇制と皇位継承 (ちくま新書)

象徴天皇制と皇位継承 (ちくま新書)

「皇統断絶という時限爆弾」

本書の中心かつ読者の目を引くテーマは、天皇制を支える新憲法(日本国憲法)と(戦後、それまでのものをほぼ踏襲して成立した)皇室典範には、成立当初から天皇制解体の仕掛けが施されていた、ということである。皇室典範皇位継承規定には成立の時点で、構造的欠陥が内包されていた。

マッカーサーが天皇制を日本の占領統治に際して利用する目的で天皇制維持を狙ったことは有名だが、その「短期的擁護」だけではなく「長期的廃絶」も視野に入れて制度設計をしていた。それがマッカーサーの仕掛けた「皇統廃絶の時限爆弾」であると本書はいう。そして日本人はそれに気づかなかった、と。
その制度設計とは、11宮家の皇室離脱であり、皇室が急激に縮小したにもかかわらず戦前のものを踏襲した皇室典範の男系男子規定であった。そしてさかのぼれば大正時代からの側室制度実質廃止も、この長期的廃絶の流れに寄与してしまうことになる。
実際に2000年代なかごろに皇位継承問題がクローズアップされ、有識者会議などで皇室典範改正の議論がなされたが、悠仁様の誕生で「一安心」とばかりに議論が先送りにされてしまった。しかし、問題の根本的解決はなにもなされておらず、このままいけばいずれ皇統断絶の恐れは十分にあり得る。

筆者は天皇制の歴史を概観したうえで、明治時代以降のイデオロギーである万世一系、男系男子を主張する基盤はすでに崩壊したとし、こう主張する。

旧皇族の復帰を選択しても、おそらく数代の延命効果しか期待できないであろう。そこで再び女性・女系天皇容認のための皇室典範の改正が必要になる、それなら、将来を見通し、小泉政権時に提出された有識者会議の最終報告書を法案化するのが賢明な選択肢であろう。
(p. 186)

加えて筆者は、現在の天皇制が「国民の総意に基づく」象徴天皇制であることをふまえ、女系天皇の容認、宮中祭祀の見直し等、象徴天皇制をいかに守っていくか、と言う視点からの提案を示す。

継承すべきは伝統の本質なのである。本質さえ見失わなければ、伝統は革新しうる。皇室の神秘性のみに目を奪われることなく、「日本国民の総意」に基づく象徴としての天皇のあり方を模索すべきなのである。
(p. 83)

感想

以前もいったが、私自身、天皇制に対して明確な態度をとりきれていない。正直に言えば、どちらかというとネガティブな感情を持っている。しかし、筆者の現実の歴史を正面からとらえ、現行の「象徴天皇制」というものを活かそうとする皇位継承問題への提案は傾聴に値する。

ただし、新書という問題があろうが、テンポがよすぎるきらいがある。
本書内の説明は歯切れがいいのだが、なんでそうなるの?!と議論において行かれるような感覚を覚える。そこらへんは筆者の他の著作を読むべきところなのだろう。
また、たとえばうえでも触れたように、マッカーサーが天皇制の「短期的擁護、長期的廃絶」を企図していたとあるが、これも少々説明不足と感じる。短期的擁護は天皇制を占領統治の安定性に利用するという意図があったわけで理解ができるが、わざわざ「長期的廃絶」という時限爆弾をしこむモチベーションは何だったのだろうか、もうすこし筆者の論を聞いてみたいところだった*1


といっても、象徴天皇制下での皇位継承という問題を考える入り口として、適当な本だと思う。

*1:強く廃絶を意図したというよりも、「皇室典範はそのままで、宮家も多くを離脱させたし、ま、将来は知ったこっちゃないけど」、くらいの気持ちだったのだろうか