【読書】サクサク読めちゃう、2014年520ページの旅/『謎の独立国家ソマリランド』

【ご挨拶】
あけましておめでとうございます。今年もどうぞid:kotaroenと本ブログ『準備運動』をよろしくお願いいたします。



2014年一発目に取り上げるのは『謎の独立国家ソマリランド』。

総ページ数500超の分厚ーい本なので、年末年始休みをフルに使って読もうかと思っていたけど、読み始めたら、3日で読み終わってしまった。

一言で言えば、むちゃくちゃおもしろかった。

謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド


ソマリランドを知っていますか

本書はタイトルの通り、「ソマリランド」という独立国家*1を中心に取材し、それをまとめたものだ。

ソマリランドという国をご存じだろうか。
いわゆる「アフリカの角」と呼ばれる地域にある「独立国家」だ(国際的にはソマリアの一部とされている)。

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/bb/LocationSomaliland3.png
ソマリランド - Wikipedia


アフリカの角というと、ここ十数年中央政府の不在が続いているソマリアのイメージだが、その旧ソマリア地域には現在3つの国があると筆者はいう(自称国家なども併せればもっとたくさんあるようだが)。

ひとつは本書のテーマでもあるソマリランド。1991年に旧ソマリアから分離独立して以降、内戦が続いたが何度も自力で終結させ、そして現在は武装解除に成功、複数政党制の民主主義国家として平和を保っている

平和を実現した要因として、筆者はソマリ人の氏族(clan)というシステム(?)に着目する。ソマリランドはその氏族と言う仕組みおよび長老の存在をうまく利用、取り入れることで「ハイパー民主主義国家」を実現している。その洗練された政治/統治システムは、確かに見事というほかない。

そんなソマリランドとは(イメージ的に)対照的なのが残り2つの国、プントランドと(南部)ソマリアだ。

プントランドは「海賊国家」として名高く、政府が海賊行為に積極的に関わっているとされる。また南部ソマリアはご存じの通り、中央政府不在の中で戦闘が続き、世にも恐ろしき場所、というイメージがある。

置かれた状況に応じた政治システム

筆者はソマリ世界をより深く探るため、ソマリランドのみならず、プントランドおよび南部ソマリアに足を踏み入れる。

まずはプントランド。確かに海賊が跋扈してはいるものの、ただ単に混乱の中で海賊が暗躍しているわけではないことに筆者は気づく。すなわち海賊に投資する人間がいて、船の乗っ取り率を上げるために情報を収集するもの提供するものがいて、そしてそれによって得た身代金は「投資家」に還元される・・・要はビジネスとして成立しているようなものなのだ。

そして南部ソマリア。筆者は首都モガディシュに踏み入れる。
確かに無政府状態ではあるのだが、それでも人々の生活が「まわっている」ことに筆者は驚く。政府がないのにインフラ(水道・電話など)はどうしているのだ?それは氏族が氏族経営で必要な場所には必要な会社を興しているようなのだ。つまり、小泉元首相もびっくりの「完全民営化社会」がそこにはあった。

ソマリランドはもちろんプントランド、ソマリアをみると、国内が安定しているとはいいがたいものの、そこに住む人々は、置かれた状況に応じて政治的・社会的システムを発達させる術を持っている、もしくは作りだしていくんだなあと、私はただただびっくりした。


ニュースですら情報が流れてこない遠くの地で、こんなにすごいことが起きていたんだ、と。

日本の戦国武将のたとえは、人を選ぶ

非常に楽しく読めた本書だが、一点気になるところがある。

Amazonレビューでも数少ない低評価の原因となっているのが、ソマリの複雑な氏族システムを、日本の戦国武将にたとえているその説明手法だ。

たとえば、イサック奥州藤原氏・ハバル・アワル伊達氏、東国ダロッド平氏・ マジェルテーン北条氏、ハウィエ源氏頼朝系アブガル・・・などなど。

確かにイサック・ダロッドなどとカタカナを並べ立てられるより、なんとなく親しみやすくていいかもしれない。
同じ民族の中でいくつものグループが形成され、そのグループどうして争っている状況を説明するのに戦国武将を持ち出すのは理解できるし、筆者の工夫も伝わってくる。私個人としてはまあ、悪くないかなー程度に思う。

しかしただでさえよくわからない氏族制度の説明で、源氏・平氏はまだしも「南部氏」とかいわれても、え!誰だよそれ!となって、余計にわからなくなりそうである。戦国武将の知識があまりない人にとっては、苦痛でしかないかも知れない。

この意味で、本書内で頻出する氏族の説明に関しては、かなり人を選ぶ、といったところか。

それを差し引いても、おもしろく、わくわくして、さくさく読めちゃう素晴らしい本だと思うのだけど。

臨場感たっぷりのミステリ

本書はミステリだと、私は感じた。
(私たちにとって)謎に包まれた国家に足を踏み入れ、調査し、謎を明らかにしていく、臨場感たっぷり一級品のミステリだ。

筆者が歩き、カートをかじり、人々と罵り合い、見聞きしたものの描写はとてもおもしろい。
そして危険な目に遭っても平気な顔をして(いるように読める!)生活する筆者が、恐ろしくも感じてくる。500ページを超える分厚い本だが、さくさく読むことができる。年末に大掃除しながら、年始にサッカー天皇杯見ながら、3日で読み終わってしまった。


なので、あと数日の年始休みのお供に、おすすめですよ。

*1:国際社会には独立を承認されているわけではないようだ