【読書】「汚くないウンコ」のはなし/青木理 『トラオ 徳田虎雄 不随の病院王』
経済人類学者の栗本慎一郎は彼をこう評した。
「汚くないウンコ」と。
- 作者: 青木理
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2013/11/06
- メディア: 文庫
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徳田虎雄とはいったい何者なのか
本書は徳田虎雄の半生を、関係者と徳田自身への取材をもとに描いていく。
徳田虎雄とはいったい何者なのか。
最近何かとニュースを賑わす日本最大の民間医療法人・徳洲会の前理事長であり、以前はカネにものを言わせた選挙をおこない医療改革をぶち上げ、近年は難病ALSに罹患し、全身不随となりながらいまだ徳洲会の実権を握り続ける男。
このくらいの予備知識は私にもあった。
そして、上の予備知識はどれも正しかった。しかし、その程度は想像をはるかに超えていった。
極貧の徳之島時代、大阪で第一号の病院を開設したあとの急成長、日本医師会との烈しい衝突、カネがとびかい「戦争」といわれた選挙戦、そして壮絶なALSとの闘病。
とにかくすざましい。ふざけていうなら「ちょっ!えっ!なんかすごいいいいい!!!すごいのぉおおおお!!!」という感じだ(←)。
カネが飛び交う選挙戦の生々しさが、日本医師会関係者の徳田に対する反撥が、そして文字盤を目で追うことでしか自らの意志を示せない徳田自身の意志の強さが、文字を通して迫ってくる。読者のこっちも、目を見開きながら時に息を止めながら、一気に読んでしまった。
善人か、悪人か
みずからが掲げる「正しい目的」のためであれば、その過程の手段が違法すれすれの(というかばっちり違法)行為であろうとお構いなしの徳田虎雄。
しかしその一方、その尋常じゃない行動から生み出した徳洲会グループの病院は、間違いなく日本の離島医療を支えている。
彼は、善人なのか、悪人なのか。
本書は徳田虎雄を(そして徳洲会を)善か悪かで語るものではない。どちらも、その両面を持ち合わせているという事実をしめしてくれる。筆者も、徳田虎雄の「良い面」と「悪い面」に困惑しながらも、ある種の魅力を彼に感じていることがその文章からわかる。
蛇足:ことばの勉強になる
青木さんの本は絞首刑 (講談社文庫)に続いて2冊目。
『絞首刑』を読んだときにも思ったのだが、青木本はムズカシイことばがたくさんでてくる*1。
たとえば本書トラオ 徳田虎雄 不随の病院王 (小学館文庫)では、こんなことばがでてくる。
- 畢竟
- 蛇蝎
- 滂沱
- 弥縫策
- 蹉跌
- 邂逅
・・・
「こんなことばはじめて知りました無知ですみません!!」というものもあるし、「あぁ意味はわかるよ(自分じゃ使ったことないけど)」というのもあるが、いずれにせよ、日常生活で読む文章ではなかなかお目にかからないことばばかりだ。
最近は辞書を脇に置いて本を読むことが多いが、辞書を引くべきことばがたくさん出てきて、「へぇ~こんなことばあるのかー」と、勉強になる。
また、ムズカシイことばつかって気取ってんじゃねーよ!ともいいたくなるところだが、『絞首刑』にせよ『トラオ』にせよ、その内容の重々しさと、こうした重厚感のある(?)漢語が良い具合に文章を引き締めているとも思う。
こういうムズカシイことばの使用も含めて、青木文体といったところなのだろうか。
*1:いわゆるノンフィクションはあまり読まないので、これが普通なのかどうかは正直よくわからない