【読んだ・観た】奇跡の転回!!!/『100分de名著 旧約聖書』

NHK・Eテレの『100分de名著』という番組をご存じだろうか。

100分 de 名著

一度は読みたいと思いながらも、手に取ることをためらってしまったり、途中で挫折してしまった古今東西の“名著”。
この番組では難解な1冊の名著を、25分×4回、つまり100分で読み解いていきます。
「100分 de 名著」とは?:100分 de 名著

案内役の伊集院光、竹内アナと、ゲスト講師とのやりとりや解説、アニメーションなどを通して名著をサクッと理解しよう(したつもりになろう)という番組だ。私は番組の存在を知りつつも、一度も観たことはなかった。今回『旧約聖書』の回ということを知って興味を持ったので初めて観た*1

そして、めっちゃおもしろかった(番組はもちろん、テキストも読み物としておもしろかった)。


番組の趣旨としては『旧約聖書』という書物を紹介することだった。しかし、私としては旧約聖書を紹介する中で見えてきたユダヤ教の成立過程(の一部)が興味深かったし、驚いたので簡単に紹介する。

本格的一神教としてのユダヤ教

番組1~2回はこのテーマが中心になっていた。
「神は俺たち救ってくれなかったけど、でも俺たち神を信じるしかない!」というのが本格的な一神教、らしい。どういうことか。


紀元前13世紀、エジプトにいた非エジプト人の集団がエジプトから逃げ出した。「出エジプト」だ。このときモーセが海を割ったりなんなりして、「ヤーウェ」を唯一の神と崇拝するユダヤ民族が成立した。この時点では民が神を選ぶ、「普通の一神教」段階だった。

その後ユダヤ民族はダビデやソロモンの繁栄時代を過ごしながらも、ついには王国の崩壊に至る。こうなると「神は我々ユダヤ民族を救ってくれなかったんだ!ヤーウェはダメな神だ!もう知らない!」となってもおかしくないところだ。現にそういう人はいたのだろう。しかし、これだけ「神に見捨てられた」様な状況に陥っても、それでもヤーウェを信仰しようとする人が一定数存在した。そしてここで、とんでもない神学的転回が起こる。

「神が我々を救ってくれなかったのは、神がダメだからではない。我々民がダメなのだ!」、すなわち、民は「罪の状態にある」という概念の成立だ。

ここに、民が神を選ぶことができない、「本格的な一神教」の成立をみた。罪の概念を導入することで、ユダヤ民族の神はヤーウェであり、そしてユダヤ民族である以上、どんなことがあってもヤーウェを捨てることができなくなった。


・・・自分の国がなくなるってときに、「うわあああ神マジ役立たず!もういらねえ!」とならずに「いや待て!神は悪くない。神の沈黙は我々が「罪」の状態にあるからだ!」という思考転回がひとつの民族集団で起こるっていうのがすごい。

黙示思想:「待つしかない」

番組4回目のテーマになっていたのが「黙示思想」、つまり「この世は悪、だから神がこの世を滅ぼして理想世界を作る!で、選ばれしものがそこに導かれる!」という考え方だ。

そしてこの黙示思想で注目すべきは「神が一方的に動く」とされている点だ。
民は「罪」の状態なのだから、神が沈黙していても当然、文句なんて言えない。そして希望の理想世界に行けるかどうかという大問題にしても、人間側の努力は救いにつながらない、とされる。人が何をしても救われない、神の介入を待つしかない、のだ。


・・・罪といったり、何しても無駄無駄無駄ァ-!といったり、ずいぶんあきらめがいいというか、ドラスティックに思考を転回させて自分を納得させるのがうまいというか・・・。


聖書に書かれている天地創造、ノアの方舟、そしてモーセの海パックリは奇跡として語られるけれども、うえにみた「転回」こそが、ユダヤ教最大の奇跡だ。こんな転回を華麗にキメて、数千年も宗教として存続し続けてきた。聖書に書かれたストーリーよりも、このヒストリーこそが奇跡として信仰の対象になりそう、そう思った。

100分de名著おもしろい

この番組がこんなにおもしろいとは。いままでスルーしてきたのがもったいなかったとおもった。週に25分だから、観やすい続けやすい。

多くの人にお勧めしたいけど、残念ながら全4回終了してしまった。NHKオンデマンドなら観られるので、ぜひ。ちょっとお金払っても、ぜひ。
NHKオンデマンド 100分de名著

6月は『遠野物語』だそうですよ。


聖書 旧約続編つき - 新共同訳

聖書 旧約続編つき - 新共同訳

*1:大学時代、旧・新訳聖書を全部読もう!という無謀な計画をたて、旧約聖書1200ページあたりで挫折した。