【読んだ】天地創造?!/『発酵』

春先以降甘酒が飲みたい飲みたいと思ってばかりいたら、こんな本を発見。すぐに書棚から取り出してレジに直行した。

発酵―ミクロの巨人たちの神秘 (中公新書)

発酵―ミクロの巨人たちの神秘 (中公新書)

まず、筆者は「発酵」を次のように定義する。

細菌類、酵母類、糸状菌(カビ)類、などの微生物そのものか、その酵素類が有機物または無機物に作用して、メタンやアルコール、有機酸のような有機化合物を生じたり、炭酸ガスや水素、アンモニア、硫化水素のような無機化合物を生じ、なおかつその現象が人類にとって有益となること
(はじめに、p. ⅰ)

この定義から考えれば、発酵とは必ずしも食品や飲料(チーズや酒)に限らないことがわかる。大気の生成も、抗生物質も、動植物の遺体発酵も、みーんな微生物がせっせと働いてくれたおかげなのだ。

本書は「発酵」についてその歴史と発酵技術・工業の現状を見ることで、いかに発酵が我々の生活に重要な影響を与えているか、いかに微生物が大活躍しているかを紹介するものだ。

そして私は著者のねらいにまんまとはまって、読みながら何度も「微生物sugeeee発酵sugeeee!!!」と叫んだ。

この地球を作ったのは微生物!

まず驚いたのが、微生物の活躍のスケールの大きさだ。
35億年前に出現した微生物は、当時酸素がない地球で酸素供給の第一歩となった。
動植物が現れると、その枯死体を分解発酵し、二酸化炭素を放出する。植物はその二酸化炭素を光合成によって消費し、酸素を放出する。そして我々が生存することができる。我々人間には発酵食品・飲料という形で恩恵を与え、そして下水処理においても発酵の力で浄化する。

とにもかくにも微生物、ありとあらゆる場面で微生物なのだ。
今の地球があるのは微生物のおかげなのだ。その意味で、微生物は創造主だ!!とすら思った。


そしてもうひとつ驚いたのが、発酵は化学が発展する近代以前から、すでに生活の知恵としてある地域の住民に受け継がれてきたという事実だ。
たとえば石川県金沢市のフグ卵巣の「毒抜き」。猛毒のフグ卵巣を化学的な知識なしにその経験と洞察力で「発酵処理」し続けてきたというのは驚きだ。
また、中国の白酒(パイチュウ、日本の本格焼酎のようなもの)は、土の中で固形の原料を発酵させるという特異な発酵法によって作られる。詳しくは本書を読んでいただきたいのだが、いったいどうやったらこんなことを思いつくのか。いや、一日で思いついたわけはなく、苦しい試行錯誤の末編み出された方法論なのだろう。

なんというか、「知識がないと何にもできない」などとはもう口に出せないなぁ・・・という気持ちになった。智慧をしぼり、経験と試行錯誤を積み重ねることで、人間は多くのものを生み出してきたんだなぁと。

ミクロな、無限の世界へ!

無限の彼方は上を向いた空の先にだけあるのではない。目の前のミクロな世界にも、無限に感じられる世界がある。
本書は途中聞き慣れない微生物の名前が続いたり、化学式が出てきたりする。そういうところはいわゆる文系人間の私にはよくわからなかった。しかし、そこは飛ばせばいい。化学式を飛ばしても、本書が見せてくれる微生物の素晴らしき世界がかすむことはない。

本書を手に取れば、今我々の目の前を漂っているはずの見えない微生物たちに、ひれ伏したくなるだろう。


発酵―ミクロの巨人たちの神秘 (中公新書)

発酵―ミクロの巨人たちの神秘 (中公新書)