【読んだ】タイトル気にせず読むといいよ!/『テレビが伝えない憲法の話』
タイトルがちょっと「アレ」なので手に取るのをためらっていたのだけれど、読んだら名著だった。もっと早く手に取るべきだった。
- 作者: 木村草太
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2014/04/16
- メディア: 新書
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筆者の木村草太氏が本書で伝えたいこととは「憲法について考え、議論するのはとても楽しい!」ということ。
あっさりと、しかし割としっかりと憲法の基礎を学べます
章立ては以下の通り。
序章:日本国憲法の三つの顔
1章:憲法の価値をかみしめる
2章:日本国憲法の内容を掘り下げてみる
3章:理屈で戦う人権訴訟
4章:憲法9条とシマウマの檻
5章:国民の理性と知性
終章:日本国憲法の物語
この章立てで
- 立憲主義:ってなんだ?
- 権力分立:国民主権と矛盾しないの?!
- 人権保障:憲法はどう解釈され、使われるのか
- 平和主義:9条と自衛権周辺の話
- 改正手続:96条を改正するとはどういうことか
といった憲法の基本的なことがらを簡潔ながらしっかりと押えている。
たとえば1章を読めば立憲主義とは何か、という基礎の基礎を押えることができるし、4章を読めば9条がいかに「普通」の条文であり、そのなかでなぜ日本は「平和主義」を掲げてきた(これた)のか、ということの理由(のほんの一部だけど)を学ぶことができる。ここらへんは、最近話題の集団的自衛権議論に付いていくためにも必読だと思う。
白眉は2章
しかし私が本書の中で一番いい!と思ったのは、2章だ。「国民主権」の意味を、あらためて考えることのできる章だからだ。
2章は日本国憲法の3大原理と、ともすれば3大原理の強調により見過ごされがちな権力分立規定に焦点を当てている。
3大原理の一つとして「国民主権」があげられるが、ではなぜ権力を分立されるのか。国民主権と権力分立は矛盾するものではないのか?その疑問に本書はこう答える。すなわち①組織において権限が一カ所集中になると適切な運営ができなくなる、②得意分野がそれぞれなので、重要な仕事をそれぞれ得意な人に任せる、という考え方、の二つだ。
加えて、ここが重要だと思うのだが、国民主権と権力分立規定の関係を考えるときに、「国民=有権者の多数決」であるという認識の危険性を説く。
国民主権であれば、権力分立させるのではなく、裁判所の決定も国民の多数決でくつがえすことができる?国会の決定も国民投票で無効にすることができる?もちろんそうではない。
国民主権の「国民」とは少数派も、そして将来国民となる人たちも含めた広がりのある概念だ。現役世代の国民の多数決で「国民全体の利益」は実現できない。
だからこそ、国会での強行採決が批判される。「選挙で勝ったんだ。多数決で何がわるい」ではない。将来世代も含めた国民全体の利益を実現するために、主張し合い、議論し、歩み寄り、そして時に妥協点を探る。このプロセスによって決定の正当性を担保するのだ。
そして権力分立はこの「国民全体の利益」を確保しようとする工夫である。
憲法議論は楽しい!
本書をさらっと読むだけでも、人権訴訟にしても、9条解釈や集団的自衛権行使容認にしても、素朴な議論ではなく、精密な法概念の積み上げが必要だとわかる。それはときに「憲法議論は煩わしく、わかりにくい」という印象を与えるだろう。
しかし積み上げる概念の一つ一つは決して我々素人にもわかりにくいものではない。憲法をめぐる緻密な議論は、憲法という国の最高法規にとって、必要なものであると同時に、飛び込んでみればおもしろさを感じることができるものだということを、本書は240ページ足らずで教えてくれる。
- 作者: 木村草太
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2014/04/16
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なお、木村さんの本でかつさくっと読めるものとしては、こっちもおもしろかった。