【読書】方法を学べ、そして実践しろ/『知的複眼思考法』・『日本人論の方程式』

「自分の頭で考える」とはなにか。

知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社プラスアルファ文庫)

知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社プラスアルファ文庫)

「自分の頭で考える」ことについて、本書の著者、苅谷剛彦はこういう。

「自分で考えろ」というのはやさしい。「自分で考える力を身につけよう」というだけなら、誰にでもいえる。そういって考える力がつくと思っている人々は、どれだけ考える力を持っているのか。考えるとはどういうことかを知っているのか。
知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社プラスアルファ文庫)、pp. 6-7

自分の頭で考えるための方法論

本書は、常識や紋切り型の考え方にとらわれない、「複眼思考」の身につけ方をといた本だ。「自分の頭で考えろ」といいっぱなしにするのではなく、どう頭を使うことが「考える」ということなのか、学びの方法論を示す。もちろんその先は「自分で考えろ」だが。
読書猿の言葉を借りれば「もはや新定番」といえるほどの、大学生基本書(?)だと思う*1

その方法とはたとえば以下のようなものだ。

  • 批判的に情報を読み取り、
  • そのなかから問題を探し出し、
  • 素朴な疑問を感じそれを「問い」に展開し、
  • 論理的に自分の考えを伝え、
  • そして「問い」をずらしていくことで問題を探っていく

こうした学びの方法論について、非常にわかりやすいことばで書かれている。限られたページ数の中で考える素材、具体例もできるかぎり多く載せられているという印象を持つ。


中でも白眉は第3章だと自分は思っている。卒業論文で何を書こうか?と思っている学生に役立つこと間違いなしである。
第3章「問いの立てかたと展開のしかた―考える筋道としての<問い>」では、素朴な疑問に対して「どうなっているのか」という考え方(=「実態を問う」問い)ではなく「なぜなのか」と考えることで、「疑問」を「問い」にしていくプロセスが丁寧に解説される。

また、「疑似相関」の見破り方、「概念化」の使い方など、問いをブレイクダウンし、「実態を問う」問いと「なぜ」という問いを組み合わせながら展開させる中で、"使えるテクニック"がちりばめられている。

この章を注意深く読むことでたとえば、卒業論文で何をテーマにして、いかにしてリサーチクエスチョンを導き出せば良いのか、という課題に対応する糸口をつかめるのではないか。

大学1、2年生の時に読んだ私は「あぁ大学ってこうやって勉強するところなんだ」と思ったことを覚えている。常識にとらわれずに学ぶための方法論、本書を読めばそれを身につける道筋が見えてくる。

その方法論を使ってみるために

前に「考える素材、具体例も多く載せられている。」と書いたものの、本書が提示する学びの方法論を練習するためには本書の中の具体例だけでは十分ではない。とはいえ、いきなり「疑問を問いに変えてぼんぼん展開していくぜ!!!」というのもなかなかハードルが高い。そこでまずは、知的複眼思考法で示された「常識にとらわれないで考える」ことを実践した本を読んでみよう。

日本人論の方程式 (ちくま学芸文庫)

日本人論の方程式 (ちくま学芸文庫)

この本は、「あたりまえ」を疑う、ということの実践を示していくれている良書だ。
またも読書猿のことばをかりれば

そのごく「当たり前」の思考法を使って(ほんと常識的な手法しか使ってない)、日本についてのよくある/有名な通説、常識を、それはそれは丁寧にコテンパンにした実例。「やってみせる」というのは、大抵の場合にわかりやすい。「何をすべきか」しかいわない本が多い中で、実際に「何ができるか」見せるというのは、それだけでも薦める理由になる。
読書猿 第123号

日本人論というジャンルはときどき流行が発生するようで、「みんな大好き」ジャンルの一つといえる。「日本人は同質的で~」などといわれてついつい「うんうんそうだねー」などとうなずいてしまいがちである。本書はそんな紋切り型の思考を、ばっさばっさと切り捨ててくれる。

有名な日本人論の方法論的・論理的な不備を徹底的に批判する。本書を読むことは苅谷本で学んだ頭の使い方の実践を示すだけでなく、「方法論」という者に対する意識を高めることにも役に立つ。

苅谷本で考え方を学び、杉本・マオア本で練習問題をこなしたら、次は世界を相手に「自分の頭で考える」番だ。

最後に

なお、知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社プラスアルファ文庫)の最後でも著者によるリーディング・ガイドが載っている。そこにあげられているとおり、常識的な見方をずらし、問いを発展させていく実践を見るには大衆教育社会のゆくえ―学歴主義と平等神話の戦後史 (中公新書)がいいと思う。

大衆教育社会のゆくえ―学歴主義と平等神話の戦後史 (中公新書)

大衆教育社会のゆくえ―学歴主義と平等神話の戦後史 (中公新書)

*1:私も大学1,2年生の時に読んだ思い出深い本だ