【読書】二人で楽しみやがって!イライラする!/『日本美術応援団』


非常に「イライラする」本だった。しかしそれは、本書の狙いどおり、なのかもしれない。


日本美術応援団 (ちくま文庫)

日本美術応援団 (ちくま文庫)


「日本美術応援団」の二人、赤瀬川源平氏と山下祐二氏が、一見取っつきにくい日本美術を「生」で鑑賞し、語り合う。
画家の赤瀬川氏が率直な感想を述べ、美術史学者の山下氏が作品や作者の背景を解説する、という対談形式で本書はまとめられている。

本書では二人が生で見に行く対象として、雪舟に始まり、写楽、北斎、縄文土器、佐伯祐三、根来塗など、さまざまなジャンルのものを取り上げている。

日本美術というと、私はどうも緊張するというか、国立博物館のちょっと暗めな部屋に厳かに展示され、ちゃんとした格好で、ちゃんとした姿勢で見なきゃいけないものかな・・・などというイメージを持っていた。しかし本書の中で二人は(特に赤瀬川氏は)作品を前にして、非常に率直な感想をずばずば口にし、私の日本美術に対する堅苦しい構えをほぐしてくれる。

たとえば長谷川等伯の章で、山下氏にお気に入りの等伯作品は?と聞かれた赤瀬川氏はこう答える。

赤瀬川:「松林図」「楓図」、どれも好きなんですけど、「古木猿猴図」は衝撃を受けましたねえ。このまま現代美術っていう感じがするんですよ。紙に描いているから穴は開いてないけど、なにかぶすぶす穴があいているような感じ。たとえば枝振りを描いたあの線がひどいんですね(笑)。確かに水墨画の線っていうのはズバッと一回きりの緊張した泉なんだけど、これはひどい。いや、"ひどい"っておいうのはほめことばでもあるんですけどね。

山下:ええ、ええ。

赤瀬川:もう、線そのものになっちゃってるんですよ。
(本書、p. 34)

巨匠に対して「ひどい」とは!!
二人はこれ以外にも、私が崇高でおいそれと近づけないと思っていた日本美術作品に対して、「下品だ」「乱暴力がすごい」などとコメントする。
あぁ、日本美術ゆーても、全然気張らなくて良いんだなぁと思わせてくれる。

「ナマ」で見ないとダメなんですね

二人は「ナマ」の作品を眼の前にして感想を言い合う。感覚を共有する。
読者はその埒外に置かれる。

「乱暴力」もそうだし、「ひどい」「全然そういうものとは違う」「生ぬるい」などと二人は作品に対して口にするが、なにがどう「ひどく」てなにがどう「生ぬるい」のか、読んでるこっちはぜんぜんわからない*1。二人で勝手に「ええ」「わかります」などとやっている。

レトリックの本を読んで「レトリックはより適切に表現するためのもの」と思っていたら、本書で二人が美術を語るために使うレトリックは、二人の共有する世界でしか通用しないものになってしまっている。

端的に言って、すごくイライラする

なに二人でナマの作品見て、勝手に感動してるんだよ!私も仲間に入れろよ!と、読みながら思うのだ。くっそー私もナマでみて、「ひどいなこの線!乱暴!!」って感じたい!!と、読んだあとに思うのだ。

赤瀬川:日本美術は「ナマ」で見ないとダメですね。図版と全然違いますから。
山下:カラー図版で大きくしても、肌合いは伝わらない。こんな仕事しててね、忸怩たる思いがありますよ。
(本書、p. 186)

本書の趣旨は日本美術を「ナマ」で見て、応援しようという!というものだ。本書を読めば、日本美術をナマで見たくなる。
イライラさせて、ナマを見に行かせるのが日本美術応援団の狙いだったのだろう。

とりあえず、大浮世絵展行くか。

大浮世絵展 | 【東京】2014年1月2日~3月2日:江戸東京博物館 | 【名古屋】2014年3月11日~5月6日:名古屋市博物館 | 【山口】2014年5月16日~7月13日:山口県立美術館


日本美術応援団 (ちくま文庫)

日本美術応援団 (ちくま文庫)

*1:私はまったくわかりませんでした。絵心とか、美術に関して造詣が深い方はわかるのでしょうか。